
土地の決め手ってなんですか?

(2017年4月発行のぜろだより掲載のコラムになります。)
人それぞれに異なる納得のプロセス
土地の決め手とは何だろう。駅の近くがいいと言う人がいれば、森の中に住みたいと言う人もいて、何年もかけて探す人がいれば、あっという間に決めてしまう人もいる。そこには良いも悪いも、正解も不正解もなく、結局のところ”人それぞれ”という定位置に戻っていく。土地の決め手、それはきっと、納得へのプロセスなのだろうと思う。
客観的な条件と主観的な感覚
まずは、家を建てること自体への納得に始まり、次にどこのエリアに住むかがテーマになってくる。実家の近く、通勤に便利なところ、希望の学区、自然環境や地域性など、様々なポイントがある。
広さも欲しいが、予算にだって制限はある。しかも、どれだけ熱望しても、自分たちが求めている時に売りに出ているとは限らない。楽しいはずだった家づくりが、次から次へと現れる条件たちに侵略され、疲れ、諦めてしまう人もいるのかもしれない。
オーバースペックになっていませんか?
10数年不動産業に身を置く、ゼロノワ不動産の田口康也(宅地建物取引士)は、「求めている土地が、オーバースペックになっていませんか?」と問いかける。ひとつでも多くの条件をクリアできていることは魅力的だが、「あったらいいな」にはキリがない。ともすると、本質を見失い、新たな暮らしを手に入れる前に、失うようなことにもなりかねない。そんな不幸は生みたくはない。
設計の力で、暮らしは変えられる
零の家を設計する福井素子(現青森設計室室長・一級建築士)が続く。「土地は絶対的な存在だけど、そこでの暮らしは、設計の力で変えられるんです。それを知って欲しい。」アイディアと工夫は、条件があればあるほど湧いてくるし、集まってくる。すまい手さんや職人さん達の熱量も加わり、転がりながら、形になっていく。そんなところに、家づくりのほんとうの楽しさは存在するのだろう。
人があれこれ悩んだ末に最後に頼るのは感覚だ。その感覚が何から来るのかはわからないが、客観的な納得のプロセスを、一気に主観的な判断へと押し上げてくれる。条件だけではない土地の決め手は、そんなところにもあるのかもしれない。(現建築工房零専務取締役・菊地史朗)
ご実家の隣に凛と佇むM様邸。震災後こうした決め手も増えている。
オフィスビルと住宅が混在するエリアに建つT様邸。角地であることも決め手の一つ。
地下鉄駅エリア、公園の隣りに建つK様邸。3邸とも暮らしぶりは伸びやかだ。
土手の桜を愛でながら暮らす
S様邸は、背後が土手状になっており、そこには大きな桜の木を仰ぎ見ることができる。
S様邸の2階内観。リビング、ダイニング、キッチンがワンフロアに広がっている。それらの窓が桜色に染まるところを想像するだけで、この土地の決め手が見えてくるようだ。
ご主人曰く、3度失敗してようやく決めた土地。それに応えるように堂々とした佇まいを見せるK様邸。
広々とした土地で織りなす家族の時間
S様邸の建つこの土地は、何と言っても広さが魅力的。360坪の敷地に、延べ床面積35坪の総2階の家が、自然体で佇んでいる。敷地の外の環境も自然が広がり、四季折々の表情を見せてくれることだろう。意外に仙台市内にもこうした場所は少なくない。
のどかな畑越しに臨むS様邸。ここは、新たな人生と新たな地域コミュニティーの拠点として建てられた。
稲刈り後のT 様邸の佇まい。代々続く土地に建替えられた大屋根の住まいは、新しくも、どこから懐かしさを感じさせてくれる。
見えなかった土地の魅力を見せてくれる提案型住宅
敢えて特徴のある土地に建照られる提案型住宅は、その土地を活かす設計を体感するには絶好の建物だと言える。土地情報や更地の状態を見てもなかなかイメージを持つことが出来なかった土地の魅力を、私たちの目の前に実際の暮らしの場として見せてくれている。写真は、丘の上の提案型住宅。
提案型住宅「土」の家。地面と同じレベルで寛ぐ畳のリビング。全開口のサッシの向こうには、外部からの視線を柔らかく遮る植栽と木フェンスを設け、緑の季節には木漏れ日の空間に。
提案型住宅「風」の外観。玄関に続く小径が趣き深い。