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ZERO STAFF BLOG

2019.04.14コラム『呼び覚ます建築』

コラム『呼び覚ます建築』第1回・プロローグ「例えば、社会課題へのアプローチ」

菊地 史朗

タワーマンション上層階で起きていること

 

先日社内で、〝タワーマンションに住んでいる 子ども達の成績が伸び悩む傾向にある”というウェブニュースが話題にあがった。

タワーマンションの上層階では窓が開けられないため、途切れることなく自動空調システムによって温度、湿度が適切に管理されている。

風の音や雨の音、鳥の声など外の音が入ってくることはない。

カーペット敷きの床は、足音をさせることもなく、もちろん隣の部屋の話し声など聞こえるはずもないのだろう。

大きな空と眼下に広がる大都会の景色を見渡す気持ちはどんなにも贅沢なことであろう。

正に、喧騒を離れた天空の城である。

こうした住環境を叶えることのできる経済力も含めて、羨ましい限りである。

それがなぜ、学力が伸び悩むという結果に結びついてしまうのだろうか。

 

記事はこう続く。

外の天気や四季の移ろい、暑さ、寒さなどの変化を感じる機会が失われ、感受性が育たない。

室内の快適さゆえ、外遊びの経験も少なく、物事に関心をもつこと自体、希薄化しているのだそうだ。

特に成績が伸び悩んでいる教科が国語だということを知り、なんとなく理解できてくる。

 

また、別の記事では、子どもの自立に遅れが出ているとも書かれていた。

親も外出が億劫になりがちで、人づきあいが減る傾向にあり、その結果、親子が密着した状態が長く続く。

いわゆるオーバーアタッチメント(過剰密着)の状態である。

親は子どもが近くにいないと不安になり、子離れできず、子は親へ依存し続け、自立心が育たない。

 

このことを知るに至り、私はハッとさせられた。

タワーマンションとの住環境の違いこそあるが、我が家も対岸ではなさそうだ。

小学校まで歩いて1時間かかる里山に家があるのだが、登校時のほぼ毎日を、途中まで車で送っている。

不便さゆえ、不憫さゆえのオーバーアタッチメント状態になっているかもしれない。

感受性や人づきあいの希薄化、好奇心、自立心が育たないこうした状態は、なにもタワーマンションに限った話ではなく、今の社会全体が抱える問題の縮図ではないか、そう思う。

今の子どもたちは大事にはされているが、愛されている実感に乏しい。

以前耳にしたそんな言葉が浮かんできた。

この文章をお読み頂いている皆さんは、どう感じられただろう。

 

 

「建築」にできること

 

 

今号から始まったこの連続コラムだが、そのテーマを「呼び覚ます建築」とさせて頂いた。

前述に垣間見えるような社会課題や、真の豊かさに対し、私たち家づくりに携わる者に何ができるのか。

建築という行為、もしくは建築物を介して、私たちは何を生み出していくべきなのか。

その可能性と取り組みについて紹介し、皆さんと共に考えていきたい。

 

―呼び覚ます―。

それは、様々な問題を抱えた今の状態を〝失われた状態〟として、感傷的に悲観するのではなく、〝単に、もともと持っている力が発揮されていない状態〟であると見立て、ちょっとした物事の見方の変化や、心の持ちよう、働きかけや仕組みによって、多くを解決できるのではないかという、希望と信頼、肯定的かつ謙虚さの態度である。

私自身はそうありたいと思うし、できれば、皆さんにもそうあって欲しいと思う。

家づくりにできることは少なくない。

それは、家づくりは暮らしづくりであり、コミュニティーづくりであり、社会づくりだからだ。

人が環境をつくり、環境が人を育む。

間違いなく、未来につながっている。

その、喜びと責任をもって次号から書いていこうと思う。

お付き合い頂けたら幸いです。

ちなみに、何を呼び覚ましたいのか。それを一例だけ、書き出しておくこととする。

 

―呼 び 覚 ま す 建 築―

例えば、暮らしの楽しさ。
例えば、家族の力。
例えば、好奇心。
例えば、手づくりすること。
例えば、野生。
例えば、美意識。
例えば、古いものの価値。
例えば、本当の自分。
例えば、人と人とのつながり。
例えば、自然。
例えば、自分の可能性。
例えば、地域のエネルギー。
例えば、私たちの未来。

 

 

呼び覚ます建築。例えば、小さな挑戦。

 

 

 

菊地 史朗

【筆者プロフィール】
株式会社建築工房零専務取締役、仙台市ほほえみの会理事、学校法人みどり学園理事。教育大学卒業後、9年間の広告会社での勤務を経て、2005年設立間もない同社に参画。以来、広報、人事、仕組みづくりなどを中心に従事する。5年前に里山に引っ越し、空き家寸前の農家住宅をリノベーションし、耕作放棄寸前の田んぼで小さな貸し田んぼプロジェクトを開始。今年は、幼稚園、保育園の子どもたち、一般の11家族と共に、自然農の米作りを楽しんでいる。妻、実子1人、里子2人、雑種犬とヤギと暮らす。

 

 

※この文章は、『IECOCORO[イエココロ] 宮城で建てる注文住宅 』に掲載されている連載コラムの内容となっています。