ゼロダヨリ/暮らし人

人が暮らしをつくり、暮らしが人を育む。
シリーズ「零の家の暮らし人」。

eps.19 つながりはアナログに

斜めの袖壁と煙突のあるすまい

大崎市古川の住宅街の一角にある、斜めの袖壁と煙突が特徴的なAさんの家にお邪魔した。木々が彩るアプローチを通り、玄関ドアを開けると、ポプリの爽やかな香りが漂い、赤べこやタコを模したオブジェなどが出迎えてくれた。

Aさんの家づくりのきっかけは、お子さんの誕生によりそれまで住んでいたアパートが手狭になったことだった。「担当者との打合せが楽しくて」と語るご主人からは、打合せ中の思い出話が詳細に飛び出してきて驚かされる。「コンセントの位置や見た目へのこだわりは、私たちでは気づかないところ。隣の家からの目線を配慮した窓の取り方と植栽の植え方が嬉しかった」と奥さまは話す。

 

家の仕事を楽しむ日々の暮らし

Aさん宅は、隣地との境を背の高い木々と薪棚で仕切っている。「最初は薪の調達に不安があったけど、薪ストーブユーザーが集う零のイベント『焚人カフェ』に参加して、薪ストーブにしようと話がまとまりました」と話してくれた。今では、薪ストーブが冬の一番の楽しみなのだそう。「冬が終わっても、春は庭いじりができるから楽しみが続くことに気づきました!」と夫婦は口を揃える。はじめは乗り気ではなかった植栽も、必要性を理解し、担当者からも熱く口説かれ、最終的には計画より多く植えることに。「庭いじりし始めると熱中しちゃって!お庭があって本当に良かったです」と奥さまが話してくれた。薪割りについても、「まっすぐ割れたときが最高に気持ちいいですね」と満面の笑みで語ってくれた。

 

思い出や記憶を形に残すこと

フィルムカメラが好きというご主人。「デジタルカメラだと、撮って終わりで、写真を見返すことが減って。撮ったものを紙に残すことが大事だと思うんですよね」と話す。それには、8年前の東日本大震災の記憶が濃密に絡んでいる。その日、家族は名取に出掛けており、時間がずれていれば自分たちの命も危ないという場所にいた。「震災以降、残るのは紙の写真だと思った。理由はそれだけじゃないけど、嬉しいことや思い出は形に残したいなと思うようになりました」と話してくれた。

Aさん家族は、大好きなアーティストが関っているボランティア『幡ヶ谷再生大学』にも参加。最初はご主人ひとりだったが、次第に家族みんなで参加するようになり、お米作りや石巻市の公園づくりに携わった。「きっかけは音楽だったけれど、今ではそこで一緒にボランティアをした人とのつながりが大事になりました」と話してくれた。

 

アナログでつながる

この日、Aさん宅の工事の現場監督と電話をつないだ。家業を継ぐべく、零での修行期間を終え、今は広島県の工務店で働いている。「笑い声が変わらないな~。仕事頑張ってる?庭に木を植えたいから、また来てよ!」と嬉しそうに話してくれたご主人は、彼が旅立つ日、一升瓶のお酒を抱えて駆けつけてくれた。データは紙にして、やり取りはメールより直接電話をかけて。遠くにいても、たまには顔を合わせる努力をする。アナログなやり取りが、Aさんの暮らしを彩る原点なのだろうと感じた。

 

珪藻土のやわらかい色味が彩るだんらんの間。

すまい外観。玄関脇のモミジは、Aさん宅のシンボルツリー。向かいのお住まいとの視線を柔らかく遮ってくれる。庭には薪が潤沢に積まれていて、見るだけで冬が待ち遠しい。

長女のTちゃんが淹れてくれたコーヒーと、奥さまお手製のチョコブラウニー。

2階は子どもたちのアソビバ

2階は、遊び心が満載だ。子ども部屋にはスキップフロアがあり、広いロフトへつながる。スキップフロアは、ロフトに物を運びやすくする中継地点としても大活躍。太い梁の上で読書をしたり、ピアノの練習をしたり、スキップフロアや階段でお絵かきをしたりと、子どもたちの遊び場として空間が有効活用されている。

ものづくりが好きな奥さま。「家づくり中も、無駄のない職人さんの仕事っぷりが気持ちよくて、ずっと見ていました」

ピアノを習い始めたという三女のKちゃん。

年季の入った和箪笥は、ご主人の実家に眠っていた祖母の姉妹の嫁入り道具。奥さまが骨董品屋に勤めていた時、親方と一緒に直し、大事に使い続けている。

1階と2階、内と外、家族をつなぐ階段

2階から、女の子3人の子どもたちの笑い声が聞こえてくる。姿は見えずとも、家族のつながりを感じられるすまい。1坪の広さがある階段の踊り場からは、だんらんの間も2階ホールも見渡せる。階段下のワークスペースに飾られている絵画は、奥さまが10年以上も前にご主人にプレゼントした自作の絵なのだそう。モダンな雰囲気のインテリアに調和している。

シューズクロークの上には、家族の思い出の品々が並ぶ。

薪ストーブのある広い土間玄関。

タワーレコードのポスター写真を手掛ける塩竃出身のカメラマン・平間至さんが撮影した写真。音楽好きにはたまらない。

ふたりの思い出に家族の思い出が重なっていく

28歳のとき、夫婦でワーキングホリデーを取得。画家とアーティストの夫婦が大家のフランスのアパートで、倹約生活をしたそう。棚の上の絵画は、その大家さんからのプレゼント。ヨーロッパを旅しながら、1年間を夫婦ふたりで過ごした有形無形の思い出が、今の住まいにもたくさん息づいている。

階段の踊り場には光を取り入れ景色を切り取る大きな窓が。ご主人の一番のお気に入りポイントなのだそう。

玄関にあったウェルカムボード。はじめは「ようこそ」とあったが、帰りの時間は書き換えられていた。

子どもたちの優しさに触れ、嬉しい気持ちになってAさん宅を後にした。

DATA

所在 / 大崎市古川
竣工 / 2018年7月
設計 / 江本 智彦(一級建築士)
構造 / 在来工法
延床面積 / 30.05坪
敷地面積 / 64.59坪