ゼロダヨリ/暮らし人

人が暮らしをつくり、暮らしが人を育む。
シリーズ「零の家の暮らし人」。

eps.10 緑が彩る毎日の暮らし

eps.10 緑が彩る毎日の暮らし

庭のある暮らし 緑のある暮らし

6月初旬、仙台の住宅地にあるK様邸を訪ねた。片流れ屋根とツートンカラーの外壁が端正な印象を与えている。家の中に入ると、天井にぶつかるほどの高さに成長した観葉植物とリクガメが目に飛び込んできた。

イタリアングレーハウンドを抱えたKさんご夫妻が、「楽しみにしていたよ」と、東北の郷土菓子である『がんづき』を作って迎え入れてくれた。

洗練されたインテリアや存在感のあるキッチンなど、見どころ満載のKさんのすまいだが、その中でも一番の見どころは庭だ。高低差のある土地に建つKさんのすまいでは、背の高いさまざまな樹木が立ち並んでいる。モミジのアーチを抜けた先には青々と茂る芝と、傍らにはハーブ畑が広がっている。色鮮やかな新緑の木々は、生命力に満ち溢れているようだった。

 

庭の緑と生き物に満たされて

ふと、庭木に吊り下げられていた泡だて器が目に入る。「あれは何ですか?」と尋ねると、「鳥の餌やりの場所なんだよ」とご主人が教えてくれた。もともと文鳥を飼っていたというご主人。虫などの餌が居なくなる冬には、泡だて器の中にミカンや干し柿を入れ、鳥の餌場にしていたのだという。メジロ、セキレイ、シジュウカラ、ツグミ…それぞれがつがいでやってきては、エサを食べていった。その鳥たちは春になると、庭に実ったジューンベリーの実をつつきに来る。「昨年は時すでに遅しで、ヒヨドリに全部食べられてしまって。今年は後れを取らないように、早朝から子どもと実を収穫したんです!」とご主人。「朝っぱらから“急げ急げ!”って叫びながら収穫するものだから、ご近所に“何かあったの?”って心配されちゃって」と奥さまはカラリと笑っていた。

 

何気ない日々を綴るアルバム

野鳥の楽しみ方は餌付けだけではない。昔から好んでいたフィルムカメラに、飛んできたその姿を収め、アルバムに並べる。そのアルバムには、実家での凧あげや娘さんのバレエの発表会の写真、光のページェントを楽しむ家族の写真などが、日付ごとに丁寧にまとめられていた。何気ないその日常が、フィルムカメラに優しく切り取られ、家族の日々を積み重ねていた。

秋のKさんの家には、いっぱいの干し柿が並ぶ。毎年250個もの柿の皮を剥き、糸で吊るしていくのはとても骨の折れる作業だ。「今年こそは皮むき器を買おう!って毎年思うんだけどね」と笑う奥さま。夫婦でダイニングテーブルに並び、夜な夜な仕込むのも、Kさんのすまいの秋の風物詩なのかもしれない。

 

地に足のついた毎日の暮らし

生き物の命を身近に感じること、口にするものを自分たちでつくること、自然や外とつながること。何気ない日々を大切に、積み重ねていくこと。そんなひとつひとつが、毎日の暮らしを豊かにしているのだと感じた。

「焼き立てより、少し冷ました方が美味しいのだけど」と、帰り際に頂いたカヌレ。自慢のガスオーブンで焼いてくれたそれは、じんわりあたたかく、ふんわり優しい味がした。

ダイニングテーブルで寛ぐKさんご夫妻。バレエを習う娘さん、自転車旅が好きな息子さん、犬の『フラン』と『マージ』、リクガメの『マリブ』とたくさんのメダカ。大家族のすまいだ。

パーゴラに吊り下げられたグリーンが涼しげ。

がんづきの優しい黒糖の風味とコーヒーがちょうど良い。美味しくいただいた。

決め込まない間取りが遊びをつくる

キャンプやサーフィンなど、自然のアクティビティが好きなKさん。梁の上にあるサーフボードは、見せるインテリアとしてすまいのアクセントになっている。2階の子の間は間仕切りを作らず、家具でのみ仕切られている。いずれ子どもが成長し、巣立った後も柔軟に使っていける可変性のある間取りだ。

家の中には大事に育てているネムノキ属のエバーフレッシュが。「夜はパタンと葉が閉じて、かわいいんですよ」と奥さま。

階段の先にはアートな空間が。

泡だて器に入れられたミカンが鳥の餌に。

キッチンから望む家族の姿

料理上手な奥さま。日常的にケーキやパンを焼くのに、ガスオーブンは絶対外せなかった。ごはんは土鍋や鉄鍋で炊いて、これからの季節はおひつに入れ保存する。土鍋・鉄鍋で炊いたごはんは甘く、いくらでも食べられる。床下には毎年仕込んでいる梅干しや梅酒が年代ごとに並んでいるのだそう。

ウッドデッキに並ぶハーブの苗床。

庭で育てているミントやセージを食べるリクガメの『マリブ』。一番好きなのは苺。

広い庭は2匹にとってドッグランにもなる。

クセのある土地は他では出せない良さがある

土地探しにはかなり難航したというKさん。土地探しの末に、もともと畑だったという高低差のある土地に出会った。その土地の購入を奨めたのは、「変形地であればあるほど、頑張り甲斐があります」と話した設計の担当者。そして見晴らしの良い庭のある、唯一無二のすまいが完成した。

ソファに腰掛けるKさんご夫妻。ご主人は、ロフトの奥に趣味の空間を設けて、こっそり楽しんでいるのだそう。奥さまはカラマツの床の感触が好きで、いつも裸足で過ごしているのだとか。

他に借りている畑で育てた野菜を収穫して、にっこり顔の息子さん。

いただいたカヌレ。香ばしいバターの匂いが漂っていた。

DATA

所在 / 青葉区千代田町 竣工 / 2016年9月 設計 / 福井 素子 構造 / 在来工法 延床面積 / 32.43坪