ゼロダヨリ/暮らし人

人が暮らしをつくり、暮らしが人を育む。
シリーズ「零の家の暮らし人」。

eps.7
ありのままを慈しむ

「食」がつなぐ 暮らしのかたち

強い冷え込みが少しだけ和らいだ2月の昼過ぎ、泉区の西中山に建つ8年目の零の家を訪ねた。総2階のその家は、家族のすまいとしての顔と、食のアンテナショップ「ヤマナカマルシェ」としての顔を併せ持っている。

店を経営する奥さまは、結婚する前、集成材などを使ったハウスメーカーの営業をしていた。住宅に携わる仕事を経験し、いつしか「無垢の長い木材を使って建てる、先人の叡智を活かした木組みの家に住みたい」と思うようになっていった。それが零のすまいの形と合致し、転勤族でありながら仙台に根を下ろす決断をした。

 

「いつか」を「今」に 変えた出来事

零の家に住んで半年後、3月11日の震災に遭った。家が倒壊したかもしれないと不安を抱えながら、娘さんを迎えにひとり幼稚園へ走った。木組み・貫工法の家は漆喰に小さなひびが入った程度で済んだ。いつもある暮らしの風景は、これからも当たり前にあるとは限らないと痛感した出来事だった。原発事故による放射能汚染の恐れから、自分も友人も感じていた、食べものや空気への底知れない不安。その不安を少しでも拭える、安心できる食を届けたいという想いから、無農薬無肥料野菜や、イタリアから輸入したオリーブオイルなどを販売する「ヤマナカマルシェ」を翌年にオープンさせた。家づくりに取り組み始めた当初から考えていた、店舗経営に踏み出した瞬間だった。

 

好きを好きと 言える幸せ

日々の暮らしの中で、奥さまが大事にしている想いがある。それは、『ありのままを感謝の気持ちで受け取ること』。野菜の収量が天候に左右されるのが当たり前であるように、無肥料無農薬で育った野菜は、形も大きさもさまざま。それに不満を抱くか、感謝を抱くかで、その事実は180度姿を変えてしまう。  奥さまは、心から良いと感じた商品を、自分が信頼する農家さんから仕入れ、素直に「良い」と伝えて販売している。とりわけ、無肥料で育った野菜は「じんわり優しい味」がして大好きなのだそうだ。

 

心に正直に、日々を重ねる

家族に対しても、それは同様だ。仕事で不在にしがちなご主人と毎日は一緒に過ごせないこと、思春期を迎えた娘さんとの関係に、成長を感じるとともに少しだけ寂しさを感じてしまうこと。「思い通りにならないことこそが、家族や愛犬のタオが居てくれるだけで幸せ、と感じさせてくれる」と気持ちを整える。  「売りたいものが増えていって、棚卸が大変なの」と笑顔を見せてくれた奥さま。このお店の存在が日々の笑顔の支えになっているのかもな、という思いを抱き、帰途についた。

取材時にごちそうしてくださった、奥さまお手製のイタリア料理。アンチョビソースをかけたグリーンサラダ、レンズ豆と野菜のスープなど、メニューは野菜中心。自慢のオリーブオイルと塩だけといったシンプルな味付けだからこそ、旨味がよくわかる。パウンドケーキと食後のコーヒーまで、どれもとても美味しくいただいた。

好きな人から、好きなものを買う

いつか店舗を持ちたい、と考えて家づくりをしていた奥さま。玄関から続く木端タイルの土間リビングと広い軒先が、店舗として使用されている。寝室や子ども部屋など、プライベート空間はすべて2階に集約。「お店を大きくしたいと思うことはあっても、暮らすには十分な広さ」と話してくれた。

どれも愛しさを感じられる商品と道具たち。ここには買い物だけでなく、奥さまとの立ち話を楽しみに来るお客様も数多いとか。学んだイタリア料理をふるまうカフェ営業日や、料理教室の日もあるそうだ。

家族揃って過ごす 何気なく、大切な一日

仕事で多忙なご主人は、家づくりの打ち合わせはほとんど奥さまにお任せしていたのだそう。それは、常に家にいる人が使いやすいのが一番大事との想いからだった。最近の休日の楽しみは、愛犬のタオと散歩すること。

ヤマナカマルシェの店主である奥さま。自分が信頼する農家さんから仕入れることは、農家さんを買い支えていくことにもなると話してくれた。

愛犬「タオ」。犬もいずれ飼いたいと思っていたが、縁がつながり昨年から家族に加わった。

竣工時のHさんのすまい。

不揃いで手のかかる、 愛おしい毎日

「零の家だって、メンテナンスが必要で手がかかる。大らかな気持ちでいないと、住むのが辛くなってしまうよね。それでも、メンテナンスフリーの家や、きれいに形の揃った野菜より、ずっと自然で愛おしいでしょ」と明るく話してくれた。

不在にしがちなご主人との時間。毎日一緒に過ごしたい想いをぐっとこらえ、変わらぬ1日を過ごす。

「ヤマナカマルシェ」 水・木・金曜 11時~16時 OPEN

DATA

所在 / 泉区実沢
竣工 / 2010年8月
設計 / 小野幸助(一級建築士)
構造 / 伝統構法(貫工法)
敷地面積 / 64.65坪
延床面積 / 29.75坪