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eps.3 あの日から…

eps.3 あの日から…

『夕日を望む家』と名付けられた西向きの零の家。だんらんの間からの西側の緑の景色がお気に入り。

震災を乗り越えた 零の家

雨続きで、夏らしくない日々が続いた8月。石巻のTさん宅を訪ねた。 Tさんは東日本大震災の半年前、石巻に零の家を建てた。それまで住んでいた北上川の中州に建つアパートは津波に流され、大破していたそうだ。幼子と奥さんを家に残し、家づくりのタイミングがあと半年遅れていたらと思うと…。
零でも、震災直後から物資を運んだり、被災地のお手伝いをした。Tさん宅へも物資を届け、地域の方々へ物資配給の拠点となって下さった。震災直後はご両親やご親戚含め7名で共同生活を送った。丘の上という立地だったため、津波による被害がなかったのが不幸中の幸いだった。お皿一つ割れなかったというから驚きだ。

 

大好きな海が 暮らしの一部に

ご主人の趣味はサーフィン。海に入り始めて20年以上になる。サーファーの朝は早く、朝4時に起きて準備をし、2時間ほど海に入るのがいつものパターン。海上の風が落ち着く朝と夕方は、波が良いそうだ。海までの移動時間がさほどかからないのは海辺の町の利点だ。今でこそ冬は海に入らなくなったが、あたたかい季節には、休みのたびにサーフィンに出かける。そんなご主人も、震災後は大好きだったサーフィンには2年近く足が向かずにいた。それでもご主人を突き動かしたのは「海が好きだから」という想いからだった。

 

暮らしが育む 家族の絆

Tさん宅には、アパート時代から飼っている猫の「マメカズ」がいる。かれこれ約15年、苦楽を共にした家族だ。梁や柱がむき出しになる零の家は、猫にとって格好の遊び場となる。猫は居心地の良い場所を知っているというが、冬はストーブの上の梁に、夏は風の通る窓際の日陰に陣取るそうだ。Tさん宅の柱や床は、猫の爪によって傷だらけ。しかし、そこからは、7年の時を経て、これまでの家族の歴史を物語るような、何にも代えがたい愛おしさが伝わってきた。

 

今が我が家の青春時代

最後に、Tさんに今の暮らしぶりについてうかがったところ『今が我が家の青春時代なんです』と答えてくれた。家族3人と猫1匹での今の暮らしがとても楽しいそうで、いずれ来るであろうマメカズとの別れや息子の巣立ちのことを考えると今から寂しい気持ちになるんだとか。苦難を乗り越えて今を楽しんで暮らすTさんご家族。きっと未来もまた、変わらず楽しんで暮らしていることであろう。

Data

所在//石巻市泉町
竣工/2010年6月
設計/小野 幸助(一級建築士)
構造/伝統構法・木組み
敷地面積/110.16坪
延床面積/33.31坪

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