ゼロダヨリ/暮らし人

人が暮らしをつくり、暮らしが人を育む。
シリーズ「零の家の暮らし人」。

ジャガイモを収穫するOさん。畑の道具をしまう奥の小屋もOさんの手づくり。

eps.1
小さな命が育む暮らし

小さな命が育む 心の成長

夏のような陽射しが照りつける6月中旬。「なかなか雨降らんね~」とすまい手のOさんが快く迎え入れてくれた。福岡県糸島市の出身。『博多弁』の絶妙な言葉遣いやイントネーションが同じ九州出身の私を心地良くさせてくれる。

この家に住み始めて約3年。あめ色になった無垢の床板、水はけの悪い粘土質の土を丁寧に耕して作った畑、その周りを闊歩する烏骨鶏と、Oさんの暮らしぶりを覗わせるには十分な光景だった。「いと」と「ふく」と名付けられた烏骨鶏2羽は、昨年から飼いはじめた。鶏舎はもちろん家族の手づくり。さらに、零スタッフが個人的に運営する貸し田んぼで無農薬、天日干しの米作りも行っている。秋には、70kgほどの家族の主食と烏骨鶏の餌となるクズ米をもたらしてくれた。Oさんは、今年6歳になる長男が、昨年入れずにいた田んぼの中に入って泥遊びできたことをとても嬉しそうに語ってくれた。今一番の楽しみは、休みの日に家族で畑や庭仕事、烏骨鶏の世話をしている時間だそう。畑を耕し、鶏舎を掃除する。その排出物が肥料となり、育った野菜を料理して食べる。そんな日々の営みから、暮らしや子育てを丁寧に重ねている様子が感じられた。

 

手をかけ汗を流すことが 日々を豊かにする。

Oさんのすまいには、自然エネルギーを暮らしに取り込む設備も導入されている。薪を燃やした熱でお湯を作る薪ボイラーはお風呂や給湯だけでなく、室内に配管することで暖房としても活用している。薪は近所の工事現場から廃材をもらって来たりして、自身で調達している。朝に薪を入れておくことで、お風呂の時間に合わせてすぐ焚けるように使い方も工夫しているそうだ。太陽光の熱をそのまま空調利用する「そよ風」も設置されている。

 

暮らしぶりが表れる自然素材の家

家の中で一番好きな場所だというリビングには、1年ほど前に作った銀杏の無垢天板が深く色味を増していた。奥様が好んで集めているという陶器のカップに、「コーヒー苦手やけん、美味しいかどうかわからんっちゃんね」、とあたたかいコーヒーを淹れてくれた。風が空気を揺らし、その空気が心地よく肌をかすめると、Oさんはまるで親戚のお兄さんみたいに、いろんな話をしてくれた。そこには、田舎に帰ったようにゆったりとした時間が流れていた。  すまいとは暮らしの器であり、すまう家族そのものだということを改めて感じた。

長靴は玄関に常備。いつでも畑仕事に出ることが出来る。

みんなで作った鶏舎。最後の仕上げは長男のE君。

土を肥やす烏骨鶏は、人の心をも育む

現代のニワトリは生産性を上げるため卵を温めるという行為ができないように品種改良してあるそうだ。しかし烏骨鶏だけは、あるべき姿のまま残っている。この日も1羽は産んだ卵を温め続けていた。烏骨鶏との関わりから子どもたちは様々なことを感じ、学んでいくのだろう。

昨年の稲刈り後、はさ掛に天日干しした様子。70kgほどの収穫だったそう。

今年のお正月にOさん宅の玄関に飾られたしめ縄は、育てた米からとれた稲藁で手づくりした。

エネルギーを 自分たちの手の中に

お風呂や給湯で活躍する薪ボイラーは、自らの手で薪を割り、火を着け、その熱でお湯を作り出す。海外から運んできたエネルギーよりも、地域の中で汗をかき、手を動かし生み出すことで得られる喜びは何事にも代えがたいものだ。

炊事場の手元にある砥石からも、丁寧な暮らしぶりが覗える。

今回訪れたOさんご家族。明るく和やかなご家族だ。

天井から吊るされた、Oさんの地元糸島市のお知り合いが作った瓢箪のスピーカー。無垢の家だと反響が良いそうだ。

日々の家族の営みは 時と共に根付いていく

日本には四季の移り変わりがあり、季節によって様々な表情を見せる。それと同じように、すまいも家族の変化や移り行く季節に反応し、その時を表してくれることだろう。

ゆったりとした時間の中、丁寧にコーヒーを入れてくれるOさん。

素敵なカップであたたかいおもてなし。

家族の集うリビングはOさんの一番のお気に入りの場所。

DATA

所在//青葉区高野原
竣工/2014年7月
設計/小野 幸助(一級建築士)
構造/伝統構法・木組み
敷地面積/82.26坪
延床面積/31.00坪