木組みの構造

下に材料力学で用いられる応力ひずみ線図とよばれるグラフがあります。 縦軸が加えられた力、つまり応力で、横軸がその入力された力に対する変形を表しています。 ×印が破断点で、つまり、耐えられなくなって壊れるところ。

赤い線は大きな力を加えてもなかなか変形しない「固い」材料。
例:ガラス、石
青い線は小さな力で大きく変形してしまうが、大きく変形してもなかなか破壊しない粘りのある材料。
例:竹、プラスチック

つまり、グラフの「角度」→固さ、「巾」→粘り強さとなります。
ちなみに、建築的には「粘り強さ」は「変形能力」ともよばれます。
建築に置き換えるとき、赤い材料、青い材料の「材料」を「構造」と読み替えてみましょう。

ところで、地震に対する建築物の「強さ」とはなんでしょう。 その「強さ」を「吸収できる地震エネルギー量」とするならば、次のグラフの面積になるはずです。

赤のように固いだけでも、青のように粘り強いだけでもいけません。
緑のように固さと粘り強さを兼ね備えた材料(構造)が理想です。

金物で仕口を固める、筋交で壁を固めるのはグラフの角度と高さを稼ぐ事。
では、巾を大きくするにはどうすればいいのでしょうか?


木材の破壊形態は6つあります。
引張り
せん断
曲げ
割裂
すり切り
めり込み

上5つは靭性よりは脆性的な破壊となりますが、めり込み(繊維に直角方向への圧縮)は大きな変形能力(靭性)を示します。
この木材の変形メカニズムを最大限に利用しているのが地震国日本で先人達が何千年の歴史を経て高めてきた伝統構法、木組みなのです。


では、具体的にどのように靭性を高めていくのか・・
一つの仕口(接合部)を例にあげる。在来工法が図①のように直行する梁を組み合わせるのに対し


図① 在来工法の梁組例(蟻掛け)

伝統構法の木組みでは図②のように太い下梁の上に上梁を重ねるように組み合わせます。


図② 木組みの梁組例(渡りあご)


○仕口が強い

在来工法では見ての通り、木の組み方が簡略化されているので、それだけでは小梁から大梁に力が十分には伝わりません。 ゆえに、どれだけ頑丈に金物で固めるかが重要となります。

対して木組みでは金物に頼る必要はありません。 また、その破壊形態は先述の「めり込み」になります。 荷重は小梁から大梁へ無理なく伝わります。

○太い材料を太いまま使う。

二つの図を見比べでわかるとおり、太い材料の断面欠損が少ないので、応力が集中する仕口(接合部)の靭性(粘り強さ)に差が出ます。

○長い梁を長いままつかう。

東西方向の梁と、南北方向の梁の高さに差が出ます。
直行する材料を組み合わせるので、当然高さの差が出てきます。 (もし、図②の渡りあごを同じ高さで組むとどちらかの断面欠損が最低でも1/2になり、弱くなってしまいます。)

それによって、長い材料を組むことが出来ます

下にそのモデル図を示します。
2階や小屋の水平面(床)を表しています。
空中から下を見たように見て下さい。

図③では横方向の梁が大梁仕口で短く切れてしまっていますが、
図④の木組みでは両方長物の材で組むことが出来ます。

図③在来工法の構造モデル(2階床伏図)

図④伝統構法の構造モデル(2階床伏図)

長い材料で組むことにより力が分散し、粘り強さが高まります。 ゆえに、木組みではより構造と間取りを一致させた高度な設計が要求されます。

しかし、逆に言えば、構造と間取りが一致しなくとも成立する金物工法の場合、力がスムーズに伝わらない構造でも形になってしまうという危険性がある。

それは設計者の構造に対する技術力低下を促しているのかもしれません。 御施主様が書いた間取りでそのまま建ててしまう設計者も多い。
プロとして提言し、目の前にある契約よりも建主のために本当に価値のある建築をつくることが必要だと感じます。


もう一つ、ここで床ではなく壁についてもふれてみましょう。
在来工法の壁は柱とナナメの筋交(スジカイ)で構成され、柱は垂直荷重に、筋交は地震の水平力に抵抗します。

先述のように固さで地震力に抵抗するので、「壁倍率」とよばれる、固さの数値がより高い筋交をより多く入れれば固い建物になります。

固さ=壁倍率×耐力壁の数

筋交は地震力に対して突っ張り、その仕口に突上げ力が集中します。ゆえにその仕口を金物でいかに補強するかがカギとなります。

対して伝統構法は筋交ではなく水平方向に「貫(ぬき)」が数本入ります。

地震による水平力が加わると各接合部に力が分散され、それぞれの場所でめり込みが起こります。突き上げ力も働きにくいのです。

また、貫は通常2間(3.64m)の材を使用し、窓のある非耐力壁も貫が通るので、更に力が分散します。



しかし、先述のグラフにたとえるとこのモデルは青の線に近く、靭性は高いが、固さ(初期強度)が足りません。

伝統構法なので無条件に完璧、とは考えません。
あくまで、伝統構法のメカニズムが魅力的なのであり、その力を最大限に活かしながら最先端の構造力学と材料を取り入れ、理想の構造体を手に入れたいと考えています。

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