設計【零の家づくり】

設計
変わるもの
変わらないもの
10歳の子どもは10年後、20歳になっている。今はアウトドアが好きだけど、10年後はインドア派に変わっているかもしれない。家族構成やライフスタイル、趣味や家電、家の中にあるさまざまなものは、“変わるもの”です。
それに対して、東から昇り西に沈むといった太陽の動きや、敷地に対する道路づけ、あるいは「夏は涼しく冬は暖かく暮らしたい」という想いなどは、“変わらないもの”でしょう。私たちは、この“変わらないもの”を大前提とした設計を大切にしています。太陽の光の入り方を考慮した窓の位置などはその一例といえるでしょう。
同時に、“変わるもの”に対しては、変化しても受け入れられる可能性を家に準備しています。たとえば、電子レンジのサイズにあわせ特注でカップボードをつくったとしても、将来的に電子レンジを買い替えるかもしれないし、新しい家電が発明されて電子レンジ自体が不要になる可能性だってあります。なので、そこは細かい部分までつくりこむ必要はない。懐深く、ある意味ルーズに設計しています。
開くために閉じる
プランは外から考える
春の若葉や秋の紅葉など、庭の木々たちのさまざまな表情。そして、風のぬくもり、雨のにおい。気持ちいい自然とつながりながら暮らしていくためには、なによりも外部ゾーニングが大切。零ではいつも、外側から設計を行います。
南面に大きな窓をつくっても、人目を気にして、カーテンを閉め切らなければいけないのでは、意味がありません。まずは、外構や駐車場、アプローチ、そして、開くべき外部空間(庭や空、気持ちのいい風景)をイメージしながら、外からの目線を考慮し、閉じるべき外部空間と植栽などを計画していきます。そのうえで、庭とつながるリビングを中心とした建物のプランを描くのです。開放的なリビングも、大きなウッドデッキのあるアウトドアリビングも、人目に閉じることではじめて、開放的に使えるようになるのです。
太陽の恩恵を受けながら
暮らしの主体者に
ほとんどの人は、明るくて暖かい家を望んでいます。しかし、それは冬の話。夏には、いかに日差しを遮るかが課題です。深い軒の出や2階のバルコニーは、高い夏の日差しが室内に侵入してくるのを防ぎ、低い冬の光は、吹き抜けを通して1階の奥まで導き入れる。自然とのつながりを保ちながら、省エネと快適さをかなえる零の家には、季節の太陽と上手につきあうための仕組みと働きが、あたりまえに根づいています。
家づくりを検討している人なら、おそらく一度くらいは「パッシブデザイン」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。パッシブデザインとは、エアコンに代表される機械設備に頼りすぎることなく、太陽光や風などの自然ネルギーを活かしながら、快適な住環境をつくり出す設計手法です。
パッシブの本来の意味は「受動的・消極的」ですが、家がパッシブだと、そこで暮らす人はアクティブになります。逆に、最新鋭の機械設備を搭載したアクティブな家では、人はパッシブになります。エネルギーも、快適性も、機械に依存しすぎるのは危険。太陽の恩恵を受けながら、暮らしの主体者になること。それが零の目指す家づくりなのです。
部屋(room)ではなく
間(space)をつくる
ベッドルームは寝る場所、ダイニングルームは食事をする場所など、部屋には「作業」の名前がつけられています。しかし元来、間取りとは「間」を「取る」というように、ひとつの大きな空間から必要な「間(space)」を区切っていくものです。襖で仕切れば寝室に、ちゃぶ台を出せば食事室になる。そんなふうに空間をうまく使い、昔の日本人は小さな家で大きく暮らしてきたわけです(ちなみに、家の中で冠婚葬祭を行うのは日本特有の文化なのだそう)。
ところが、欧米から「LDK」の考え方が輸入されて、いつのまにか家族の個が重視されるようになりました。各部屋にテレビがあって、扉には鍵がついている。もしかしたら日本人は、好きな時間に好きなことができる自由を手に入れたかわりに、愛情をもって家族と接したり、隣人に配慮したりする精神を失ってしまったのかもしれません。
ある程度のプライバシーは必要ですが、空間を共有し、顔をあわせ、お互い尊重しあえる「間づくり」がやはり望ましいと、私たちは考えています。さらに、「家族の人数+LDK」ではない、あいまいで融通のきく間取りは、家族構成やライフスタイルなどの変化にも自在に対応が可能で、長く住みやすさが続き結果として家の長寿命化にもつながります。